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東京地方裁判所 昭和29年(行)22号 判決

原告 田中義一 外一名

被告 国

主文

原告らの主たる請求を棄却する。

原告らの予備的訴を却下する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

広島郵政局長山本圭二が昭和二十九年二月二十日原告田中義一に対してなした停職五日、郵政大臣塚田十一郎が同日原告大藤小一に対してなした停職三日の各懲戒処分の無効であることを確認する。

被告は原告田中義一に対し金二千八百四十四円同大藤小一に対し金三千三百六円ならびに昭和二十九年三月十日以降それぞれ右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、

さらに予備的に右第一項の請求が容れられない場合には

広島郵政局長山本圭二が昭和二十九年二月二十日原告田中に対してなした停職五日、郵政大臣塚田十一郎が同日原告大藤に対してなした停職三日の各懲戒処分を取消す。

との判決を求める。

第二、請求の原因

一、原告田中、同大藤はいずれも郵政事務官として広島県広島市駅前郵便局(以下単に駅前郵便局と称する。)に勤務中のものであるが、昭和二十九年二月二十日広島郵政局長山本圭二は原告田中に対し、郵政大臣塚田十一郎は原告大藤に対しそれぞれ請求の趣旨記載の通り懲戒処分をなし、なお原告らに対し右停職期間中の各給与たる請求の趣旨記載の金員の支払をしない。

二、しかしながら右の各懲戒処分は原告らが要旨後記のような文言を記載した文書(以下単に本件文書という)を作成し昭和二十八年十一月二十五日これを広島市民の間に配布した行為が「郵便料金を払わないものを郵便外務員に命じて配布したもので郵便料金を免れる行為に該当する」ものとして懲戒処分に付するというのであるが次の理由によつて無効である。

1  原告らの右行為は懲戒に値すべきものではない。

2  原告らが本件文書を広島市民に配布したのは次の事情によつてなされたものであつて正当な組合活動である。即ち、原告らは郵政省従業員をもつて組織する全逓信従業員組合(以下単に組合と称する)の組合員であり広島駅前郵便局支部(以下単に組合支部と称する)に属するものであるが、昭和二十八年十一月組合と郵政省との間には公共企業体等仲裁委員会の賃金値上に関する裁定(昭和二十八年八月以降一万四千二百円ベースとする趣旨)の実施をめぐり紛争が継続していたので、組合は右紛争の継続により郵便事務の処理が遅れ、一般公衆に不測の損害が及ばないようにし、かつ組合の右裁定実施の要求が正当であることを一般市民に訴える趣旨の組合活動を行うべきことをその所属組合員に通達した。そこで駅前支部においても右の通達に従い、「組合はかねてより一万八千五百円ベースの賃上げを要求してきたが、仲裁委員会は『予算上から見ても二十八年八月より一万四千二百円ベースが相当である』と裁定したが政府はこれさえも無視しているので、組合はやむなく法律によつて許された斗争をする。そのため十一月二十七日以降郵便事務がおくれるがその責任は政府にある。」という要旨の文言を記載した本件文書を配達区域内郵便大口利用者に配布することを決定し支部長であつた原告田中と組合員原告大藤が右の決定に従い配布したものであつて正当な組合活動である。

しかして日本国有鉄道職員については、これらに対する不当労働行為となるような使用者の行為は無効とせられており、その理由はその行為が憲法第二十八条に保障せられた労働基本権を侵害するもので重要な法規に違反するということによるものである。ところが原告らも郵政事務官として国家公務員法の適用を受けるものではあるが、同時に国鉄職員と等しく公共企業体等労働関係法の適用を受け団体交渉権を有し仲裁委員会の裁定を受け、それに対し不服ある場合は法律問題のみならず事実問題についても裁判所の判定を求め得るのであつてその労働関係は著しく私法的色彩を帯び、たゞ単に官営事業の従業員として一面公務員の身分を有するため争議行為を禁止せられているに過ぎない。したがつて原告らに対しても不当労働行為となるような行為はやはり無効としなければ憲法第二十八条に保障せられた労働基本権が侵害されることゝなる。

よつて右のような正当な組合活動の故になされた懲戒処分は不当労働行為として無効としなければならない。

3  また組合員は国家公務員法、公共企業体等労働関係法により労働者としての団結権、団体交渉権及び争議権につき多くの制約を受けており、その不利益を多少とも補正する趣旨から仲裁裁定の制度が設けられているので、国はその裁定を無視しながら、その裁定実施を要求する組合員に対し本件懲戒処分に出ることは懲戒権の濫用であつて無効である。

三、仮に以上がすべて無効原因とならないとしても、本件懲戒処分は労働組合法第七条第一号に違反すること前記の通りで法律違反の瑕疵があるから取消さるべきものである。しかして原告らは昭和二十九年四月十四日公共企業体等仲裁委員会に訴願をしその後三ケ月以上を経過しているから、取消の訴を提起することができる。

四、よつて、右各懲戒処分の無効確認と右の請求が認容せられない場合はこれが取消しを求めるとともに、原告等両名の右停職期間中の給与ならびにこれに対する昭和二十九年三月十日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

第三、請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第四、請求原因に対する答弁

一、請求原因一、の事実は認める。

二、請求原因二、の事実は争う。原告らを懲戒処分に付した理由は次の通りである。

1  原告田中に対する懲戒処分の理由

原告田中は訴外西川昭が用意しておいた消印ずみの郵便はがき用紙(以下本件用紙と称する)でその裏面に休暇戦術を実施するについての訴と題し、原告ら主張のような文言を印刷したもの約百五十枚のうち本件文書(少くとも四十枚以上)の表にそれぞれ駅前郵便局区内の郵便大口利用者の住所姓名を自ら記載したり又は原告大藤に記載させた上、右文書を配達させる目的で同局区内の市内道順組立台の上におきよつて同局従業員に一般郵便物の配達とともにその配達をさせたが、これは国家公務員法第八十二条各号の懲戒事由に該当するものとして懲戒処分に付したのであるがさらに詳述すれば

(イ) 右文書は郵管第二四五号通達により不用品として往信部と返信部とを切離し消印された往復はがきであるが郵便規則第十八条にいう料額印面の汚染された便郵はがきで郵便物であるからしたがつて右文書は郵便法第二十二条第三十二条で定める料金に相当する郵便切手を貼付しなければ差出すことができないに拘らず、原告田中は郵政事務官として郵便業務に従事するものでありながらこれをしないで配達させたものであるから郵便法第八十三条第二項に違反する行為をしたものであり、このような行為は国家公務員法第九十八条第一項に違反しその職務を遂行するについて法令に従わなかつたものであるから同法第八十二条第一号に該当する。

(ロ) 原告田中の右郵便法違反の行為はまた官職全体の不名誉となるような行為をしたことともなり国家公務員法第九十九条後段に違反するものであつて、かような行為は同法第八十二条第三号に該当する。

(ハ) 本件用紙は前記のとおり不用品として往信部と返信部とを切離された往復はがきで料金面の消印されたものであるが、昭和二十七年三月二十七日発せられた前記郵管第二四五号通達及び右通達に従い発せられた郵業局第三三六号通達によればその使用目的は郵便職員技能検定試験及び郵便競技会用にのみ特定されておるに拘らず、原告田中はほしいまゝにそれ以外の前記目的のために使用したのであるから国家公務員法第九十八条第一項に違反し上司の職務上の命令に忠実に従わなかつたものであるから、かような行為は同法第八十二条第二号に該当する。

(ニ) 原告田中は右文書を配達させるにあたり、郵便大口利用者の住所氏名のメモを集配担当者らに提出させ、次いで前記のように本件用紙に名宛人の住所姓名を記載したり、これを道順組立台の上に置いたりなどしたのであるが、この行為は昭和二十八年十一月二十四日の原告田中の勤務時間中に行われたもので、これは国家公務員法第百一条第一項に違反し職務専念義務を尽さなかつたもので、このような行為は同法第八十二条第一号に該当する。

これらの故をもつて原告田中を懲戒処分に付したのである。

2  原告大藤に対する懲戒処分の理由

原告大藤は駅前郵便局の外務主事として勤務中昭和二十八年十一月二十五日原告田中の依頼を受けて裏面に前記文言の印刷してある本件用紙約百枚をその表面に駅前郵便局内の郵便大口利用者の住所氏名を自ら記載し、又は部下である訴外松本真三に記載させたりして本件文書(そのうち三十枚余)を正規の手続によらないで同局内市内道順組立台の上に置いて郵便により配達するに至らせたのであるが、

(イ) 右配達するに至らせた文書は郵便法で定める料金に相当する郵便切手の貼付がなければ差出すことのできないに拘らず、原告大藤は右切手の貼付のないことを知りながらこれを配達するに至らせたのであつて、駅前局郵便課外務主事として郵便の業務に従事している原告大藤のこのような行為は郵便法第八十三条第二項に違反するものであり、国家公務員法第九十八条第一項に違反しその職務を遂行するについて法令に従わなかつたものであるから同法第八十二条第一号に該当する。

(ロ) 原告大藤の右郵便法違反の行為はまた官職全体の不名誉となるような行為をしたことゝもなり国家公務員法第九十九条後段に違反するものであつて、かような行為は同法第八十二条第三号に該当する。

(ハ) 原告大藤は昭和二十五年二月一日公達第五号郵便局組織規程第二十四条第二項に定める主事として「上司を助け従業員を指揮する」職責を有し、広島郵政局昭和二十七年九月二十五日郵文局第九九九号通達をもつて定めた「法令規則細則を部下職員に解説し法規通達類を研究してそれを部下職員に指導周知し、誤区分消印洩れ、及び脱落切手の有無を点検し、その状況を監査しなければならない」職務権限を有しているものであるところ、本件用紙が前記通達により郵便葉書として再使用することを禁ぜられていたものであることを知りながら前記のように敢て自らこれを使用したばかりでなく、部下である松本真三に前記行為をさせたのは以上の通達及び公達による上司の職務上の命令に反し主事としての右職責を尽さなかつたものであるから、国家公務員法第九十八条第一項に違反し上司の職務上の命令に忠実に従わなかつたもので、かような行為は同法第八十二条第二号に該当する。

(ニ) 原告大藤は右文書を配達させるにあたり、集配担当者らに郵便大口利用者の住所氏名のメモを提出させ次いで前記のように本件用紙に名宛人の住所氏名を記載したり、又これを配達させる目的のために道順組立台の上に置いたりしたのであるがこれらの行為は、昭和二十八年十一月二十五日の勤務時間中に行われたもので、これは国家公務員法第百一条第一項に違反し職務専念義務を尽さなかつたもので、同法第八十二条第一号に該当する。

これらの故をもつて原告大藤を懲戒処分に付したのである。そしてこのような原告らの行為は組合の正当なる活動とは言えないから、このことの故に懲戒処分をしたことは不当労働行為となるものではない。

三、権限濫用であるとの主張は争う。

第五、懲戒法令の適用に関する原告らの主張

一、国家公務員法第九十八条第一項前段、同法第八十二条第一号について。

原告らが被告主張の官職を有するものであることは争わないが、被告主張の原告らの行為は郵便法第八十三条第二項に違反するものではない。何となれば本件文書はビラであつて郵便物ではない。また郵便法第八十三条第二項の犯罪はその行為者又は不法な利益を受ける第三者が郵便料金支払義務を負担し、かつその支払義務あることを認識していることをもつて成立の要件とする。しかして、郵便料金支払義務が発生するには、その物件が郵便利用関係に入ることを要する。そしてこの郵便利用関係は利用者と郵便官署との私契約であつて、その契約は利用者の郵送申込行為と郵便官署の承諾によつて成立するが、郵便官署は郵便箱又は窓口の設置により郵便契約締結の意思表示を不特定多数人に対してなしているから、通常郵便物について言えば、その申込は郵便箱又は郵便局の窓口に差出すことによつてなされる。したがつて、この差出行為がない限り郵便利用関係に入ることはない。本件は被告が主張するとおり差出行為はなかつたから郵便利用関係に入らなかつたもので駅前支部は郵便料金支払義務は負担していない。

被告は本件文書が直ちに原告らによつて道順組立台の上に置かれたことをもつて郵便利用関係に入つたものであると主張するものであるけれども、それが差出行為に代える目的でなされたものでない限り郵便利用関係に入つたものであるとは言えない。原告らは単に道順組立台で業務を行う集配員に郵便物としての取扱以外のこと、即ち業務上の私事を依頼したに過ぎないのであつて差出行為に代える目的でなされたのではないから郵便利用関係に入つたものであるとは言えない。また原告らの行為は組合支部の決定に基き組合員による配布行為として集配人に依頼したものであつて料金免脱の責任を生ずるいわれがない。したがつてまた原告らにおいて郵便料金を免れる意思もなく料金支払義務の存することの認識もないのであるから、この点において郵便法第八十三条第二項に違反するものではない。故に原告らがその職務遂行において法令違反の責任を問わるべき理由はない。

二、国家公務員法第九十九条同法第八十二条第三号について

原告らには郵便法違反の事実のないことは前述のとおりであるから官職全体の不名誉になるような行為をしたことゝもならないし国家公務員法第八十二条第三号に該当するものではない。

三、国家公務員法第九十八条第一項後段同法第八十二条第二号について

本件用紙は被告の述べるような目的に限定されていたものではなく、郵政従業員の日常の公私の事務につき消費されておるものである。また、国家公務員法第九十八条第一項後段に所謂上司の職務上の命令に違反するとは法令規則などで定められた一般的秩序に違反することを指称するものではなく個々の具体的処分につき上司の発した命令を指すのであつて原告らにはこれに該当するような行為はない。したがつて同法第八十二条第一号にも該当しない。

なお被告は本件用紙を使用した点につき原告田中を問責しているけれども従来組合と郵政当局との間に行われてきた本件懲戒処分に関する交渉の際には責任追究の理由としたものでないことは当局が屡々言明したところであつて、今に至つてこれをも懲戒処分の理由とするのは懲戒事由について郵政当局の陳述の浮動していることを示すものであつて、それ自体不当労働行為をなしたものであることを明らかにするものである。

四、国家公務員法第百一条第一項同法第八十二条第一号について。

国家公務員法第百一条第一項の職務専念義務違反は勤務時間中業務外の余事をなすことにより、正常な業務が目に見える程度に阻害された場合でなければならないが、原告らの行為によつてこのような事態は起つていない。よつて同法第八十二条第一号に該当するものではない。

第六、法令の適用に関する原告主張に対する被告の反駁

一、本件文書は郵便物であつて原告らの主張するようにビラではない。何故ならば、これは特定人である駅前支部の意思を同局内に居住する市民の特定の者に配達させる目的で作成されたものであつて、多数不特定のものに配付される目的のために作成されたものでなくこの点でビラと性質を全く異にする。

また郵便利用関係が私法上の双務契約関係にあり、郵便物一般についての契約は利用者の申込行為と郵便官署の承諾、すなわち両当事者間の合意によつて成立すること、並びに普通取扱の通常郵便物については郵便規則第六十四条第一項の除外事由該当の場合を除きこれを郵便差出箱又は郵便局の窓口に差出す行為によつて契約が成立するものであることについては異論はないが、郵便法第八十三条第二項の規定は、右の差出行為によつて始めて生ずるような具体的現実的郵便料金支払義務の存在を前提とするものではなく、右の規定に該当するには郵便の業務に従事するものが、不法に郵便に関する料金を免れ、又は他人にこれを免れさせる行為があれば十分である。原告らは郵便規則第十八条第一項前段の規定に従つてあらたに料金を貼付してこれを差出さねばならないのに、その挙に出ないで却つてこれをそのまゝ道順組立台の上に置き、配達担当者の不知に乗じ、或いは発見された場合にも特別の理由からしてこれを配達するであろうことを期待してついにその目的を達したのであるから、郵便法第八十三条第二項に違反するものである。仮りに原告らの意図が業務外の私事を配達担当者らに依頼するにあつたとしても、配達担当者らは成規の配達組織を通ずる限りにおいて本件文書を郵便物以外のものなりとしてこれを取扱う権限を有しないのであるから、郵便局側としてはかゝる文書は第二種郵便物として原告らの意図を離れ客観的な立場からこれを取扱わねばならない。原告らは本件文書を私事として配達担当者らに依頼する場合は法定の切手の貼付の必要がないと考えていたと主張するけれども、被告は右主張事実を否認する。原告らは多年郵便業務に従事してきた豊富な経験の持主であるからである。仮りに右の事実が認められるとしても右はいわゆる法律の錯誤であつて原告らに郵便料金を免れる意思がなかつたものということはできない。

また原告田中は同人の本件行為は組合支部の決定に基き、組合員らによつてなされた配付行為であり、しかも組合員に依頼した結果なされた行為であるから料金免脱の責任の生ずる余地はないというけれども、組合の決定に遵つた行為であつても刑罰法令に牴触する限り刑事責任を免れるものでない。

二、郵政当局において本件用紙を郵政従業員の日常の私事に消費することを許容したり又はこれを放任したことはない。

三、本件懲戒処分につき組合と郵政当局の接渉した際、郵政当局は本件用紙を窃取したとか、遺失物横領に該るとかいう意味において、原告らの刑事責任を追究するものではないと言明したことはあるが、行政上の責任まで追究しないといつたことはない。

四、職務専念義務違反をもつて問責するには、一般的には当該行為によつて正常な業務運営が特に目に見える程度に阻害されない限り行政上の処分をなさないのを普通とするが、本件所為は郵便料金免脱事犯に該当するもので、かゝる犯罪行為についての予備的行為に該当する如き所為に対しては右の程度に至らなくとも問責する必要あること当然であり、組合活動の故に放任さるべきものではない。

第七、証拠の提出とその認否〈省略〉

理由

第一、懲戒処分無効確認の訴について。

一、原告両名がいずれも郵政事務官として広島県広島市駅前郵便局に勤務中のものであるところ、昭和二十九年二月二十日広島郵政局長山本圭二が原告田中に対し同日郵政大臣塚田十一郎が原告大藤に対し原告主張の懲戒処分をしたことは当事者間に争いない事実である。

二、原告らはいずれも郵政事務官であつて国家公務員法の適用を受けるものであるから、右の懲戒処分はいずれもいわゆる行政処分に該当する。尤も郵政職員は公共企業体等労働関係法第二条に基き日本国有鉄道職員などゝ同様、同法の適法を受けその限りにおいては他の一般国家公務員とその取扱を異にするものであるけれども、この公共企業体等労働関係法の適用を受けることによつて、そのものに対する懲戒処分が他の一般公務員に対すると異なり、行政処分たる性質を失うものではない。しかして行政処分はそれが瑕疵ある場合であつても、その瑕疵が外見上明白でかつ重大な場合にだけ無効と解すべきものであつて、重大な瑕疵であつても外見上明白でない場合には、取消原因となることはあり得てもこれを無効とすべきではなくこのことはその行政処分が不当労働行為であつて労働組合法第七条第一号に違反する瑕疵あるものであつても異ならない。原告らは郵政職員については他の一般国家公務員と異なり、行政処分が不当労働行為となる場合はそれが外見上明白でなくとも無効とすべきであるというが、その処分が私法上の処分ではなく、いやしくも公法上の処分と解せらるゝ場合には解釈を異にすべきではない。(そして不当労働行為となる処分をたゞそのことの故に無効と解しなくとも、瑕疵ある行政処分として取消され得るのであるから、憲法第二十八条の労働基本権を保障しようとする趣旨を没却してしまうものではない。)

ところで原告らはまず本件懲戒処分は、原告らが被告主張の文書を昭和二十八年十一日二十五日広島市民に配付した行為を理由としているけれども、これは正当な組合活動を理由としたもので不当労働行為であると主張し、このことも懲戒処分の理由の一であることは当事者間に争がないけれども、右の行為が正当な組合活動であることが外見上明白であるとはいえないから、たとえこの点について本件懲戒処分に瑕疵があつたとしてもそれが取消原因となることのあるのは格別、これを無効とすることはできない。原告らの主張は失当である。

次に原告らは本件懲戒処分は権限の濫用であつて無効であると主張するけれども、これを認めるべき証拠がないからこの点に関する原告らの主張も失当である。

よつて懲戒処分無効確認の訴は理由なきものとしてその請求を棄却しなければならない。

第二、懲戒処分の取消の訴について

次に行政処分の取消を求める訴は、行政事件訴訟特例法第三条によれば、その処分をした行政庁を被告としなければならない。しかるに本件処分をした行政庁は郵政大臣及び広島郵政局長であつて、国は処分した行政庁ではないから国を被告として提起せられた本訴は不適法であり却下すべきものである。

第三、金員支払を求める訴について

本件金員支払を求める訴は本件懲戒処分の無効又は取消により失効することを前提として停職期間中給付せらるべき給与の支払を求めるものであるところ、本件無効又は取消の請求の採用されないこと既に述べたとおりであるから、これを前提とする右の請求もまた採用することができない。よつて失当として棄却しなければならない。

第四、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八十九条第九十三条但書により敗訴の当事者たる原告らの連帯負担とする。

(裁判官 千種達夫 綿引末男 高橋正憲)

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